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坐禅指導

#053 坐禅指導

 

【老師】

皆さんこんにちは。今日もご縁をいただいて、ご一緒に坐禅をする機会を得ましたこと、ありがたく思います。

 

こちらのスケジュールで、一番最初に坐禅についての指導ということになっております。坐禅の指導にあたりましては、まず作法と、そしてさらに坐るということが、どういうことをしているのか、ということが大きく分けて考えられます。初めての方も何人か、おられるようですので、ここの道場で、どういう風に坐禅をしているかということを話します。

 

到着をして着替えが済んで、いよいよ自分の位置を決めますけども、そのとき、まずこの道場に入って、道場の本尊様(ほんぞんさま)になっている仏像がございますので、入りましたらそこに立っていただいて、足を揃えて軽く合掌(がっしょう)して一礼をいたします。さらに自分の坐る位置まで進んでいただいて、位置が決まりましたら、今日一日、その場所を自分の坐る位置として、変えずにお使いいただきたいと思います。

 

自分の位置が決まったところで、その位置に立ちましたら、布団の方に向かって合掌一礼をいたします。これは、隣位問訊(りんいもんじん)と言います。隣位は隣の位置です。隣の位置にいる人に対するご挨拶です。したがって、うるさいこと言えばその両脇にいる方は合掌されたときに、先に座っておれば、それを手を合わせて受けるということがあります。まぁうっかり忘れていれば、それでも構いませんけれども、相手が合唱して頭下げたら、先に座ってる人は手を合わせてそれを受けるということです。

 

それから体を元に戻したら、合唱のまま、右回りして後ろを向いて、一礼をします。このとき、相手側の人ちょっと位置が離れてるから、分かりづらいかもしれませんけど、気を感じたら合掌して、受けていただけると良いかと思います。正式にはそういう風になってる。これは対坐問訊(たいざもんじん)。相対(あいたい)する人に対する挨拶です。これが座り始めるとき、まずおこなわれます。終わるときも、この形を使います。だから始めと終わりには、必ずそういう礼儀作法があるということですね。対坐問訊が終わりましたら、その位置にそのまま坐蒲(ざふ)の上に腰を下ろして、下ろしましたら、右回りをして、今のような体制になります。

 

そうしましたら布団の扱い、坐蒲の扱い、そういうものに注意をしていただきます。大きな座布団、座褥(ざにく)になりましたので、布団から出るということは、恐らくないと思いますが、坐蒲を布団の少し後ろの方に置いていただいて、お尻は坐蒲の中央に大体位置するぐらい、前半分を使います。この坐蒲に坐ったとき、左右に偏ってると、あと体が歪みますので、きちっとした位置に座ってください。

 

下の方から順番に形を整えていきますが、まず足の処理は二通り教えられております。結跏趺坐(けっかふざ)と半跏趺坐(はんかふざ)です。結跏趺坐は、両足を組むんですけども、そのときに右足を先に左の腿(もも)の上にあげます。そして前から、左足を右の腿の上にあげます。半跏趺坐と言われるものは、ただ左の足だけを右の腿の上にあげます。したって、組んでおらない右の足は、左の膝小僧の下にあると膝が起きますので、十分、内股の方に踵(かかと)を引いてください。そうすると両膝が程よく、布団の上に収まると思います。伝え来たった坐禅の足の形は、そういう風になっておりますが、この反対の組み方もあります。反対でも構いません。それは足を組んでみると多少、人によってですね、関節とかいろんなものの柔らかさが違ってですね、組み安い方がある。あるいは長時間もこうやって、何(なんちゅう)も坐る場合は、同じ形のばかりだと足がえらくなったりしますから、随時それは変えていただいても結構です。

 

伝えられた坐禅の形、両方とも足が組めない方、それにはそれなりの工夫をしていただいて、坐っていただければ結構ですが、参考までに申し上げると、胡坐(あぐら)をかくと言うようなことがありますが、胡坐をかくと両膝が上がってしまいますので、胡坐の似たような形ですけども両足を並べておくという風にすると、膝が布団の上で収まりやすい。それから更には、正座、日本の正座ですが、そういう形をとって、足の間にお尻の所に、坐蒲を挟んでいただくと、これまた膝にあまり負担がかからずに、楽に坐れるのではないかと思います。

 

さらには椅子が用意してありますので、椅子を使っていただいても結構です。椅子の場合は足が前に垂れていますけども、足の長さに合わせて椅子を作ってありませんので、自分の足の長さに収まるように、足が長い人短い人が多少いるので、床から浮いてしまう場合は、足の下に座布団を置くなりしてですね、隙間のないぐらいの位置に使ってください。それから両膝をぴったりくっつけて坐ると、なかなか安定感は難しいので、握り拳一つ、男性ならもうちょっと、広げて座ってもいいかと思います。で、都合が悪いようだったら、前にかける物を、風呂敷なり、そういったものをちょっと一枚用意しといてもらって、前に掛けていただくと気にならないかと思います。

 

次に脚が組めたら姿勢を正します。できるだけ基本に従っていただきたいと思いますが、これまた一人よって、現状の体がですね、すでにもう固まってしまってる、そういう骨の人もいますので、それらは適時、各自自分のことをよく知った上で、体に負担のないようにしてください。健康な方は胸椎(きょうつい)、腰骨ですね、おへその裏辺りを指しますので、お臍(へそ)を前に出す様にしていただくと、腰の付け根がずっと起きてきます、立ってきます、のでそれを伸ばしていただいて、そして顎(あご)を引いていただくと、ゆったり坐れると思います。

 

次に手の処理では、右手の上に左手を置きますが、親指の先を軽くふれ合わせて、そこに綺麗な楕円形を作っていただく。お供えのような感じですかね。形ができましたら、できれば自分で確認をして、その形が維持できるようにしてください。体に沿って、下まで降ろします。

 

次に口の処理、舌を上顎(うわあご)上歯(うわは)の付け根から上顎に付けます。そして歯と歯、唇と唇を閉じます。

 

眼の処理は、眼を開けていただいて、だいたい自分の前方一メートルぐらいのところに、静かに視線をそのまま落としていただく。

 

このくらいのことができましたら、次に口を少し開いていただいて、一回息を全部吐き切っていただきます。そのときに体の力を抜いて、風船がちょうど萎(しぼ)むようにですね、そんな感じで息を吐き切っていただきます。吐き切ったら、大きく下腹(したはら)に吸い込んでください。そしたら、またゆっくり息を吐いていきます。所謂(いわゆる)、腹式の深呼吸を、さらに二、三度重ねていただきます。そのときも、やはり体が緩むように、息を吐くときに力を抜いてください。そうすると形を保ったまま崩さず、体の余分な力が抜けていくと思いますから、そうやって坐るとき、そういう風な体勢でいただきたい、いたるところに力が入って、ガチガチのような形で坐らないということは大切でしょう。

 

さらに、両手を膝の上に仰向けに置きましたら、左右揺振(さゆうようしん)ということをいたします。これは、さらに体を緩めるということですね。左右に大きくはじめ、倒していきますけども、要領は息を吐きながら倒していきます。倒すときに、自分の意思で体を動かさずにですね、頭の重みでずっと垂れていくように、そんな感じで息を吐きながら、していただくと体が思い切って、緩んでいくはずです。ストレッチも同じですね、自分の力でやるとあれはストレッチにならないので、この左右揺振もそういう要領でやっていただくといいと思います。戻すときに息を吸っていただいて、また反対の方へ倒して息を吐きながら、初め大きく、だんだん小さくしますが、左右に七、八回ぐらいが限度ですかね。あまりいつまでもやっていても困るので、七、八回初め大きく、だんだん小さくして止まりましたら、手の形を元の形に戻します。そして坐って参ります。

 

ここから座ってるとき、坐禅ていうのはどういう風に過ごしているかということになりますね。今教えた形ができて、そのまま、ただ時が過ぎればいいというものではありません。坐禅が、普通の座っていることと一番違う、或いはよその行と違うっていうことは、坐禅をしてるときに自分の中に湧き上がって来る思い、或いは自ら起こす思い、そういうものを相手にして過ごす時間でないということです。

 

あと何が残るかって言うと、お分かりのように、自分の生き様そのもの、なまで生きてる生き様そのものが展開しております。そのことにただ親しく居る。自分自身の生身で活動して生きている様子っていうものは、これはもう眺めるような距離ではありません。眺めるような対象にはなってません。 探るようなものではありません。いきなり自分の生身そのものですから。そういう時の過ごし方をいたします。これが坐禅と言われる内容ですね。

 

それから合わせて、それに類したことですが、皆さんはひょっとするとどこかで、物を読んだり聞いたり学んでですね、坐禅というものに対する概念イメージそういうようなもの持ってる方がおりましたら、坐禅はそういうものを持ち込んで座りません。坐った後にお伺いすると、今日は坐禅が気持ち良くできたとか、上手くいったとか、いかなかったとかいうお話を聞くことがしばしばありますが、こういうタイプの方はですね、今申し上げた、坐禅の中に坐るときに、もう既に坐禅に対する自分のイメージがある方ですね。だから、そういう風に評価して参ります。これは坐禅になりません。

 

坐禅の形のときも、お話をいたしましたけど、姿勢はこうやって正しく作ったら力を抜いてそのままいて頂いた方がいい。それから、手の形にいたしましても、口の処理にしても、目の処理にしても 、教えられたとおりにやっていただけるとありがたい。中でも一番おかしやすいと言うか、教えが守りにくいのは、眼(まなこ)でしょうね。眼(まなこ)は閉じやすい。あるいは、目は開いてる、自分で確かに開いてるって言ってる人でもですね、不思議なことに出てくる思いとかを相手にし始めると、目の前のことが全く問題にならない、所謂、見えているっていう感覚がない、どうしてそうなるかって言うと、頭の中に思い浮かんだものを相手にして、それを見てるから、目を開けてるんだけど、目の付け所が、全く頭の中の考えを追ってるっていうことですね。これはもう先ほど申し上げた様に坐禅にならならない。考えごとをしてるって、ただそういう評価になります。形を作って、いろんなことを考えてるだけです。これも全く坐禅とは言いません。まあ注意していただくのは、そういうことでしょうね。あとは、親しく自分自身の生身の真相そのままに、こうやって居るということ。だから、いつでも清々として、すっきりして、はっきりして、爽やかにいるはずです。それが生き生きとしてる自分自身の真相ですから。

 

後は重ねて申し上げますけども、求めない。求めたら、必ず今の本当に生きてる生身の真相から必ず離れて行く。それをやると駄目です。注意事項としてそういうことです。

 

時が来ますと、一炷(いっちゅう)の坐禅が終わりを告げます。鐘が二声(にせい)ですね。坐禅の始めのときは三声(さんせい)、次に二声(にせい)、二声鳴ったら、一回目の坐禅を解きますので、そのときは合掌をして、軽く一礼をしたら、手を両膝の上に先ほどの様に仰向けに置いたら、今度、坐を解くときは、初め小さな動きからゆっくり大きな動きにしていきます。息の使い方は同じように、傾けるとき吐きます。戻すときに吸っていただく。合わせて組んでいる脚を解いて、静かに立ち上がります。

 

立ち上がるときに、まず右回りをして、後ろ向きになって一旦立ち上がって、さらに右回りをして、膝をついて頂いたら、今お使いいただいた坐蒲をを両手で押しながら、静かに音がしないようにしながら、綺麗な形に膨らましていただいて、布団の上に納めたら、立ち上がって一礼をします。そして、右回りをして相対して一礼をします。そしたら、この堂内を右回りで、一つの円になるように回ってきますので、進行方向に体を向けましたら、叉手(しゃしゅ)という手の形をとります。これは今日一日、廊下なんかを往来するときにも使ってください。手に物を持ってないときには、叉手をいたします。叉手は左の手の親指を握って頂いたら、右手をその上から覆うようにいたします。手は高さを胸にだいたい水平になるくらいにいたします。そして、自分の体から握りこぶし一つくらい離して、前の方に位置を整えます。

 

歩く速度は一足半歩。所謂、吸って吐く一息に足を半分出します。最初に右足から出すように伝えております。右足を半分前に出して、息を吐いていきます。詳しく申し上げると息を吐くときに右足を前に出しまして、そのままそこに止まって息を吐き切って、吸って次に吐くときに左足を半分前に出して、止まって息をそのまま吐き切って、吸って吐くときに右足をという風に、交互に足は進めます。呼吸に合わせてですね。ただし、あんまり厳密に一人一人ですね、自分の呼吸を固持すると早い人と遅い人が多少おりますから、間が空いたり詰まったりし過ぎますので、立った位置くらいの間が、そのまま保ってるぐらいの感じで、歩みを揃えていただいたらいいかと思います。経行(きんひん)と言います。

 

丸く回りますけども、角はあんまり立てませんけど、とにかくまっすぐ前に、この部屋を進んでいきます。経行は坐ってるときの坐禅に対して、動いてるときの坐禅と思ってもらったら、まあ一番分かりやすいと思います。坐っていただいた、その坐の力を一回づつ終わったら元に戻すようなことをせずに、そのまま次の坐禅に崩さずに継続していただく。だから足を進めていることそのことが、坐禅と同じように只あるんですね。副産物と言うか、その他の効果としては、まず血行が良くなる、足の痺(しび)れが取れる、眠気が覚めるというようなことがありますので、経行はそう言った意味でも使われます。

 

途中で鐘が一声鳴りましたら、そこに止まり叉手のまま軽く会釈をしていただいて、終わったら姿勢を戻して普通の速度でそのまま進んで、自分の位置まで進んでいただく。自分の位置に戻りましたら、自分の坐る方に向かって一礼をして、さらに右回りして相手側に一礼をします。これで一コースということになります。これを何回も、これから坐る間、続けていきますので、基本的にはそういうことでご了解いただきたいと思うし、また熟練、何回も座ってる方々も改めて再認識をしていただいて、座っていただければと思います。

 

げんにーび対話集